環境省SHIFT事業とは?支援機関が解説する「カーボンニュートラルの始め方」
- 脱炭素って何からはじめるの?
- コストを削減したい
- 設備更新をしたい
- 補助金を活用したい
- 外部認証を取得したい
- 再エネを導入したい
- CO2の見える化をしたい
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2022/11/30
カーボンニュートラルを始めるには、専門家を活用できる環境省のSHIFT事業が効果的
1. カーボンニュートラルの取組を始めるためには?
① SHIFT事業は様々な取り組みに活用できる
- カーボンニュートラルに取り組む企業にとって、初めに何から始めるか悩む方は多いのではないのでしょうか?
- 太陽光を導入する方、低炭素電力に切り替える方、省エネに励む方、いろんな始め方があります。
- ただ、忘れてはいけないのはこのカーボンニュートラルという取組は2050年を目標としていて継続的に取り組まないと、達成できないということです。
- 初めに太陽光を導入してその後どうしますか?次の一手は?何ができますか?
② 環境省のガイドライン
- カーボンニュートラルに取組む企業に対して、環境省が下記のようなガイドラインを公開しています。
- このガイドライン、ボリュームがあるので本腰を入れないと読めない内容ですが、是非、目を通していただきたい。
- ポイントは、このカーボンニュートラルは長期的な取り組みが必要とされており、抜本的な事業の在り方から見直しを迫られるという内容になっています。
- 従来の省エネ対策だけではなく、製品の設計など抜本的な取り組み方自体を見直し、その実現のためには長期的に取り組むことが必要なのです。
- そのためには、すなわち「ロードマップの策定」が必要という趣旨になっています。
③ 目標設定とロードマップが大事
- このガイドランをみて不思議に思うのは、直ぐに対策をするようにとは記載がありません.
- 長期的なロードマップの策定が大事だと書かれています。
④ その為には、自社を知る必要がある
- 2030年に46%削減という目標を日本政府は掲げたわけですが、企業単位ではどうでしょうか?
- 参考に中小企業版SBTという国際認証制度では毎年4.2%の削減が求められるとされています。これは基準年の設定の仕方によりますが、おおよそ2030年に40~50%削減することに相当します。
- また、上場企業を中心に、取引先である中小企業に削減要請をする場合、やはり4.2%の削減を求めることが多いようです。
- では、その4.2%の削減、行き当たりばったりの対策、投資計画で実現できるものでしょうか?
- 残念ながら、行き当たりばったりで4.2%の削減を継続できる企業を私は知りません。
2. 環境省のSHIFT事業とは?
①SHIFT事業とは?
- SHIFT事業、これはSupport for High-efficiency Installations for Facilities with Targetsの頭文字をとったもので、訳すと「設備の高効率導入支援」でしょうか?
- 2021年にCO2削減ポテンシャル事業事業とASSET事業が統合して現在の形になりました。
- 主に中小企業などCO2削減に取り組む事業者を対象に、設備導入だけではなく、脱炭素脱炭素診断と計画策定まで支援してくれます。
- 設備導入事業においては、CO2削減目標未達の場合、排出権の購入により不足分を補うことができます。
これからカーボンニュートラルに取り組む事業者は、脱炭素診断と計画策定事業を受けると良いですし、既に実施したい対策がある場合は、設備導入補助を受診すれば良いです。※なお、脱炭素診断と計画策定事業を受診しておくと、設備導入事業の優先採択枠が付与される仕組みになっています。
参考資料:環境省SHIFT事業WEBサイト令和6年度 SHIFT事業概要
② SHIFT事業の構成 脱炭素診断と計画策定
- SDGsを掲げている、中小企業版SBTの取得を考えている、これから取り組みたいが何ができるかわからない、対策が尽きたと思っている、などいろんな動機のパターンがありますが、とにかく、これからの糸口を見つけたい場合は、この脱炭素診断と計画策定支援を受けることをお勧めします。
- 脱炭素脱炭素診断では下記のようなことを把握することができます。
A) 自社の事業所において排出しているCO2排出量
B) 設備毎に排出しているCO2排出量
C) CO2排出量の削減のための課題
D) 課題と対策案
E) 対策毎の個票と呼ばれる、対策の概要がわかるシート
F) 対策の一覧表
※脱炭素診断については、参考サイト:脱炭素診断とはを参照 - この脱炭素診断で把握した対策を実施に移す際の計画としてまとめたものが脱炭素化計画となります。
③ SHIFT事業の構成 設備導入補助
- 設備導入補助事業にはいくつかのパターンがあります。これは年度にもより異なるので令和4年度のパターンで説明します。
- 1つ目の設備導入事業は事業所毎に申請が可能です。CO2削減率が15%以上で申し込みができます。ただし、事業所当たりのCO2排出量を15%以上削減するのは、一般的な製造業ではハードルが高かったりします。その場合は、次の要件の方が良いかもしれません。
- システム単位で30%以上でも申し込みが可能です。大きな事業所で1部分を申請したい場合、事業所単位で15%削減は難しかったりします。その場合は、このシステム単位で30%を目指して申請します。
- なお、それぞれの設備導入事業については、複雑すぎてこの記事では書ききれないので続編でお知らせします。
④ SHIFT事業の構成 排出権取引
- このSHIFT事業では排出権取引制度が用いられます。
- 設備導入補助事業において、応募申請時にコミットするCO2排出量を、対策実施翌年度の検証年度において、目標未達となった場合は、この排出量を購入し、充当するという制度です。
- 未達の場合においても、この排出権の購入で充当することができるというメリットがあります。気を付けないといけないのは、生産量が増加してしまった時のCO2排出量の増加分まで購入の対象となってしまうことでしょうか。
- 今の段階では、CO2クレジットの単価が高いわけではないので、この単価であれば、購入してしまったほうが良いのかもしれません。ここは、事業者の考え方次第です。
- また、この排出権取引が適用されるため、脱炭素診断と計画策定事業においても、かなり異なる点があります。
- それは、事業所でのCO2排出量の算定や実施計画書のCO2算定根拠が非常に精緻に審査される点です。ここは支援機関が支援してくれる範囲になりますが、支援機関への負担が大きく、私はそこが心配でなりません。
- 1点注意しないといけないことがあります。それは、この排出量取引を活用して、設備導入事業を実施する際には、第3者検証が必要な点です。
- この第3者検証は、執行団体でもない、支援機関でもない、事業者でもない、第3者の検証となります。
- この第3者検証については、有料です。費用に大きなバラツキがあります。基準年度のCO2排出量を決めるために1回、検証年度が終わった後1回、計2回受けるわけですが、標準的には1回当たり25万円ほどのようです。ただし、時期によっては高額になる場合があり、高いところだと100万円ほどの見積もりが出てくることもあります。事前に問い合わせをして、第3者検証機関を確保しておくことをお勧めします。
⑤ SHIFT事業の支援機関
- このSHIFT事業は、脱炭素診断や計画策定を支援してくれる支援機関と呼ばれる専門家が登録されています。全体で140社ほどです。
- この支援機関は、専門資格と実務経験が登録の要件になっているわけですが、そのスキル、得意領域は各支援機関によって異なります。支援機関を選定するポイントは、エリアと得意な業種、設備、実績になります。
- また、この脱炭素診断と計画策定事業自体が補助事業になっているため、その応募から3年間の事業報告を手伝ってくれる支援機関が良いでしょう。
- 例えば、空調の脱炭素診断を特に希望するので貼れば、空調が得意な支援機関、ボイラを中心に脱炭素診断したい場合はボイラが得意な支援機関、今後のカーボンニュートラルに向けた長期的な脱炭素計画を策定する場合、中立的な立場で診断してくる支援機関を選定すると良いでしょう。
3. SHIFT事業を活用するメリット
- ① 補助金が支給されることで、実施のハードルが低くなる
- ② CO2の排出状況が把握、理解できる
- ③ 対策の方向性がわかる
- ④ ロードマップ策定のための材料が手に入る
- ⑤ 設備導入補助事業の優先採択枠を得ることができる
4. SHIFT事業のスケジュール
詳しくは下記の図を参照ください。
参照:令和5年度補正予算 SHIFT事業公募要領(CO2削減計画策定支援)より
- 5月頃に公募が開始されるので、そのタイミングで応募する必要があります。
- R4年度は41事業所が応募されていました。100件が募集の目安だったようです。先着順になるので早目に準備をしてください。
- 7月頃に採択され、交付申請を行って、脱炭素診断事業が開始となります。脱炭素診断事業は、約3か月、最近は長期化する傾向があります。
- 事業が完了すると、一旦、支援機関に費用を支払い、その後完了報告を済ませ、補助金を請求していただく流れとなります。
- この脱炭素診断と計画策定事業、補助金が支給されて終わりではなく、その後3年間事業報告をする必要があります。この事業報告ではその年度のCO2排出量と計画を立てた対策の実施状況についてです。対策の実施義務はありませんが、折角脱炭素診断し、計画を立てたので実施していただきたいのは、支援機関の願いです。
5. SHIFT事業で計画策を行った後の展開例
① SHIFT事業の設備導入事業に応募する
- SHIFT事業で脱炭素診断と計画策定を行うと設備導入事業に応募する際に「優先採択枠」が付与されます。
- 設備導入事業に直接応募する場合は、あくまで申請内容を総合評価方式で点数付けされ、優れた事業から予算の範囲内で「採択」され、点数が優れていない事業は「不採択」となります。
- 一方、この「優先採択枠」を有すると、点数が優れていなくても、この「優先採択枠」で採択となっている例が見受けられます。
- 中規模の燃料転換やバイオマス化など、大幅なCO2削減を狙う事業であれば、直接「設備導入事業」に応募しても採択の可能性がありますが、一般的な「空調更新」「ボイラ更新」程度の対策であれば、この優先採択枠の活用が有効です。
参照:令和5年度補正予算 SHIFT事業公募要領(CO2削減計画策定支援)より
② 他の設備導入事業に応募する
- このSHIFT事業の「設備補助金」に応募するのも一手ですが、経済産業省の省エネ補助金に応募するのも有効です。
- 補助率、予算規模など、公募の性格が異なるので、そこは上手に選定しましょう。
③ 中手企業SBTを取得する
- このSHIFT事業で計画を策定すると、それぞれの対策実施時の効果を把握することができます。
- これは、SBTなど目標設定に関する国際認証を取得する上で、目標の確からしさを知る非常に有効な情報となります。
- この中小企業SBTは登録も非常に簡単な制度なので是非活用を検討してください。
④ CO2の見える化システムを導入する
- 脱炭素診断の調査段階で、設備の稼働状態を把握するために、計測による電力などの見える化を行います。
- この過程で、事業所でのCO2排出状況を把握するために、計測システムの導入とCO2見える化に移行される事業者の方もいらっしゃいます。
6. SHIFT事業支援機関の選び方
① やりたいことが明確な方は?
- 燃料転換したい、空調を入れ替えたいetc.、これからの計画が既に具体的で補助金を狙いたい方は、支援機関リストで「その設備が得意で、実績の多い会社」を選定すると良いでしょう。
② 自社の状態を把握したい、これから計画を立てたい方は?
- 中立的な立場で脱炭素診断と計画策定をしてくれ支援機関の選定が必要です。主に工事を生業にしている支援機関は、工事受注を狙っての支援のため、この計画策定のみをお願いしても受けてもらえないケースが多いようです。
- 過去の事業計画が公開されているため、そこから満遍なく対策を立案している支援機関を選ぶと良いでしょう。
令和4年度SHIFT事業支援機関リスト R4shienkikan_list_rev3
7. SHIFT事業活用時に注意して欲しいこと
① 2期連続債務超過があると申し込みはできません。
- 赤字は大丈夫ですが、2期連続の債務超過があると、いずれの補助事業にも応募できません。
参照 環境省SHIFT事業 公募説明会資料 (計画策定支援事業)より
② とにかく書類が複雑で審査が細かい
- エネルギーの使用量、敷地境界、様々な「なんでそんなこと?」と思うような資料の準備を指示されます。独自で対応しても良いですし、支援機関には、そのようなところにもサポートしてくれる機関もあります。
③ 問合せ窓口がメール
④ 排出権の購入
- 設備導入事業を活用する場合には、排出権の購入という選択肢があります。第3者検証を受けるための費用と労力を事前に調べておきましょう。
⑤ 3年間の事業報告
- 3年間の事業報告があります。その年度のエネルギーの使用量を集計しCO2換算、対策の実施状況を報告します。
8. SHIFT事業のまとめ
- SHIFT事業は脱炭素診断と計画策定事業、および設備導入事業により構成されている。
- 計画策定事業から始めても良いし、設備導入事業から始めても良い
- 計画策定事業から始めると、設備導入事業に移行した際に優先採択枠が付与される。
- 脱炭素計画策定事業は、その費用の3/4が補助される。
- 脱炭素計画の策定から始める場合は、客観的な診断ができる支援機関が望ましい。
この記事を書いた人
田崎剛史
株式会社エネルギーソリューションジャパン 代表取締役 エネルギー管理士
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